スタートアップとの協働事例2~生活文化局文化振興部・東京都歴史文化財団編~

アップグレードウィズトウキョウのイラスト

 東京都はスタートアップとの協働の実践を積み重ね、社会課題の解決などに取り組んでいます。この記事では、これまであまり知られていなかった各局とスタートアップとの協働の実践の現場や担当者の思いに焦点を当てて、ご紹介していきます。
 今回は、第11回Upgrade with Tokyo(都政課題解決に向けたスタートアップピッチイベント)に参加した生活文化局文化振興部、東京都歴史文化財団の担当者にお話を伺いました。

Upgrade with Tokyoへ参加した理由・背景

―Upgrade with Tokyoへの参加理由を教えてください。

 生活文化局文化振興部と、都の政策連携団体である東京都歴史文化財団は、芸術文化の力や都立文化施設の資源を活用し、少子高齢化や社会包摂など、東京の社会課題解決への解決に取り組むために、2021年度から「クリエイティブ・ウェル・プロジェクト」※を実施しています。

※2022年度から、「だれもが文化でつながるプロジェクト」へ名称変更

 このプロジェクトでは、デジタルテクノロジーを活用して、障害者のアクセシビリティの向上、芸術文化の新しい鑑賞方法や事業の開発、障害を契機としたイノベーション創出に取り組むプログラムに取り組んでいます。
 先端的なデジタル技術を活用して、「誰もが、いつでも、どこでも芸術文化を楽しめる環境」を実現していくために、スタートアップと協働する機会を求めて、Upgrade with Tokyoへ参加しました。

〇Upgrade with Tokyoへの参加を決めてからイベント当日まで

―参加を決めてから、ピッチイベントまでの様子を教えてください。

  参加を決めてから、ピッチイベント本番まで約3か月程度でした。その間、産業労働局の担当者とは、対面による打合せを2回実施し、細々とした調整等はメールや電話等で行いました。私たちは、Upgrade with Tokyoの受託事業者と直接話はしていませんが、産業労働局の担当者が私たちの意向を考慮して調整してくれたと思います。

―テーマや課題を決めるのは大変でしたか?

 ピッチイベントへの参加は、「クリエイティブ・ウェル・プロジェクト」の一環として実施したのですが、プロジェクト内容をスタートアップに理解してもらうために、できるだけ分かりやすい表現や文言にしようと、関係者間でかなり時間をかけて調整しました。

〇Upgrade with Tokyoピッチイベント当日

MR(複合現実)が映し出されたスマートフォンの画像

優勝社:株式会社GATARI
商品概要 空間のスキャンから空間編集、マルチプレイヤーでの復元・体験までをスマートフォンのアプリケーション上でワンストップで実現可能なMR(複合現実)プラットフォーム。

当日の様子は以下のnoteをご覧ください。
第11回『通信技術・デジタル機器を活用した都立文化施設のアクセシビリティ向上』

〇Upgrade with Tokyoで優勝したスタートアップとの協働

―ピッチイベント後のスタートアップとの協働の様子を教えてください。

 ピッチイベントで優勝した㈱GATARIとは、2021年2月16日のイベントから約半月後の3月4日にキックオフミーティングを行いました。
 その後、GATARIのAuris(オーリス)※を最も有効に活用できる都立文化施設として、江戸東京たてもの園が実証実験の場として選ばれ、関係者で打合せや現場立会い等を重ね、イベントの開催に向けて着実に準備を進めていきました。


※ARcloudオーサリングツール 詳しくはコチラをご覧ください。

オーディオフレームの画像
オーディオフレーム 【撮影:Crew by KPS】
(装着するとフレーム内蔵の極小スピーカーから音声を聞くことが可能)

 キックオフミーティングから11か月後の2022年2月にプレスカンファレンスと一般向け体験会を開催する予定でしたが、まん延防止等重点措置が発令されたために、残念ながら中止せざるを得ませんでした。ただ、1月24日及び31日に東京都関係者向けの体験会を開催しました。

ピッチイベントのスケジュール

―スタートアップとの協働で良かった点や苦労した点を教えてください。

  協働を通して、私たちが管理する文化施設の魅力について改めて考える機会となりました。また、スタートアップ側の視点から、文化施設の魅力と発信方法についてアイディアを得ることもできました。
  一方、技術的に必要な水準のインターネット通信環境が施設側に十分に敷設されておらず、スタートアップ側のプランから修正を余儀なくされる場面があり、その調整には苦労しました。

―スタートアップと協働してみての気づきや新たな視点を教えてください。

 音の演出に特化したMRプラットフォームを活用したものでしたが、3D空間にモノのように音を配置して、文化財建築を見ながら、音の演出でその鑑賞体験を深化させるというコンセプトは当初想像したよりもシナジー効果が高く有効で、体験者の反応も非常に良かったです。
 また、文化施設は建物への機器設置等が制限されるのですが、3Dスキャンした空間へ情報を付加していくという方法は、様々な事例への活用が見込めると感じました。

Step1空間でカメラをスキャン
Step2音を配置
Step3設置音源は立体音響で体験

―スタートアップとの協働について、事前に想像していたことと違った点がありましたか?

 技術面だけでなく、スタートアップの「若さ」や私たちと異なる視点が双方に刺激を生み、より良い事業へ結びつくのではないか、という期待は当初からあって、実際にそれは様々な場面で表れたように感じています。
  一方で視点が異なるが故に、到達目標の捉え方に齟齬が生まれる懸念もありましたが、それはwebツールなどを用いて対話を重ねることによって回避でき、良い関係を築けたと思っています。

―今後のスタートアップとの協働について、考えていることがあれば教えてください。

 コロナ禍の影響などから、今まで通りの施設運営が難しくなる場面が出てきています。新たな文化体験を創出し、利用者層を開拓する必要性もあるため、スタートアップとの協働の取組を継続的に検討していきたいと考えています。

体験会の様子
1月24日及び31日に実施された関係者向け体験会の様子【撮影:Crew by KPS】
(建築物に関する解説がオーディオフレームの極小スピーカーから聞こえている。)
(写真の黄色スピーカーはイメージです。)

―スタートアップとの協働により、これまでにない文化体験の創出という新たな価値の創造に結びついていくことがわかりました。生活文化局、東京都歴史文化財団の皆様、ありがとうございました。

スタートアップ協働戦略v.1.0に基づき、スタートアップとの協働を更に推進していきます。Upgrade with Tokyoなど協働の取組への各局の皆様の積極的なご参加をお願いいたします!