進捗状況(2024年度)
5Gを活用した最先端研究
○5Gを活用した最先端研究を行い、成果を社会に発信しました。
■研究課題1「ARゲームで楽しく単独移動を支援するAI車椅子システムの社会実装」
研究代表者:串山 久美子 教授(システムデザイン研究科)
L(ローカル)5Gによる高速・大容量の移動通信システムを活用し、障がいのある人の楽しい外出機会の創出に資するAI及びARゲームコンテンツによる活動支援システムの開発を、専門の6チームを構成して推進しています。
チーム1 | 車椅子装着センサデバイス・アプリの開発とサービスの提供 |
チーム2 | 自動運転車椅子に関する実験及びデータの収集 |
チーム3 | 車椅子目線での深層学習を用いた障害物・目標物検出システムの開発 |
チーム4 | 健康福祉分野における調査・車椅子身体活動量のリハビリメニューの作成 |
チーム5 | ARゲームコンテンツの制作 |
チーム6 | ワークショップ・社会貢献活動に関する企画 |
2024年4月から2025年3月までの間に、以下の事項に取り組みました。

【ARハッカソンイベントの開催】
大学教育の先端育成活動として、「車椅子で楽しむ大学内ARゲームの提案」をテーマに、学生を対象とした「ARハッカソン」ゲームと、車いすに関する特別講演を、2024年8月29日から9月8日まで対面形式で開催しました。東京都立大学生及び他大学生50名、車椅子当事者や支援専門家が参加し、東京都立大学日野キャンパス内での車椅子を使用したARゲームのプロトタイピング開発と、紹介動画の制作を実施しました。また、本取組に対し「L5G環境を利用した車いすARハッカソン研究プロジェクト演習連携授業」として東京都立大学 ベストティーチングアワード2024 (11月1日)を受賞しました。

【東京都立特別支援学校との連携イベント開催】
東京都立八王子東特別支援学校の小、中、高生徒との体験会を開催し、大学の車椅子研究を当事者に体験していただきました。
(「東京都立大学見学体験会」2024年6月21日及び28日、東京都立大学日野キャンパス「AR+面白インタフェース体験会」2024年12月20日、東京都立八王子東特別支援学校)

【国際福祉機器展での成果発表等】
L5G研究成果の福祉分野への紹介として、国際福祉機器展M.C.R.2024 (10月2日から4日、東京国際展示場) での展示を行いました。企業から多くの問い合わせがあり、今後の社会実装への展開ができました。今後、応用として、大阪万博での福祉AR展示にも協力します。また、2025年2月10日から21日まで日野キャンパスSDギャラリーにおいてプロジェクト紹介の展覧会を開催しました。

【学会での成果発表】
CGやインタラクションの高いレベルの国際学会であるACM SIGGRAPH2024 (2024年7月28日から8月1日、アメリカ・コロラド・コンベンションセンター)で、ARコンテンツに関して大学構内の3Dスキャンデータを利用し視覚効果を備えたドローンシミュレーターを発表しました。また、ACM SIGACCESS(アクセシビリティに関する学会2024年10月27日から12月30日、カナダ・セントジョーンズ)において、起立性調節障害を予防するためのエクサゲーム開発におけるレベルアップ要素の影響を発表しました。さらに、ACM SIGGRAPH ASIA2024 (2024年12月3日から12月6日、日本・東京国際フォーラム)で、手動車椅子トレーニングのための視覚化手法.コーチとユーザー間のコミュニケーションへの影響について発表しました。また、国内学会では情報処理学会アクセシビリティ研究会(2024年7月25日及び26日、リヨン株式会社)で、遠隔地間車いす操作ソフトウェアの開発や手動車いす操作技術評価のための支援システムの開発と調査、車いす利用を前提としたARゲームのデザインとユーザ評価他インタラクション2025など関連8件の発表を行いました。

【プロジェクションワークショップイベントの開催】
研究成果を活用した大学生向けワークショップイベントとしてWHEE-Project ワークショップ2025冬(2025年2月18日から27日)を開催しました。ワークショップイベントでは、車椅子と6軸モーションセンサを使用し、車いすや身体の動きと連動した画像を作成、その映像をローカル5G使用可能エリアである日野キャンパス4号館吹き抜け空間の大空間に投影しました。

【国立障害者リハビリテーションセンター研究所での実験】
本プロジェクトで開発した車椅子装着センサデバイス・アプリを使用し、長期間にわたる車椅子運動支援のデータ収集の実験を行っています。(https://whee-project.org)
■研究課題2「L5Gネットワークを用いた次世代マルチモーダルセンシング」
研究代表者:和田 圭二 教授(システムデザイン研究科)
L5Gネットワークを用いて、次世代の情報通信技術を基盤とするセンシングシステム(無線通信機能を持つ複数の小型センサー端末を特定の空間内の各所に設置し、複数の計測方法で同時計測することで、空間内の情報を計測・判別するシステム)の提案・構築を目指しています。また、電磁環境の計測やエネルギー制御技術の基盤構築に取り組むことにより、安心・安全なシステムの実現可能性について、立証を行っています。これらの取組を通じて、人間の動きや密集度を安定的に計測・評価することが可能になり、ウィズコロナ及びポストコロナを見据えた感染症対策や、災害時に安全な避難経路を提示するなど、次世代の防災システムの構築に貢献することを見込んでいます。
【ミリ波帯の新たな可能性を拓く新型アンテナの開発】
2024年度は本研究課題において、ミリ波帯における通信とエネルギー伝送の両方に活用できる革新的なアンテナ技術を開発しました。
【次世代ミリ波通信・電力伝送を実現する新技術】
研究グループでは、「等間隔サーキュラアレー(UCA)アンテナ」と呼ばれる特殊なアンテナを、薄くて曲げられる「液晶ポリマーフレキシブル基板(FPC)」上に実装する新しい方法を提案しました。この技術は、5G/6G通信や様々な機器への無線充電など、幅広い用途に使えると期待されています。 このアンテナは、円筒形の特殊なアンテナを、薄いプラスチックのような柔らかい基板の上に作り、それを丸めて組み立てる技術であり、(図1)これにより、電波を自在に方向制御できるアンテナが、より安く、簡単に作れるようになりました。(図2)

【優れた性能】
開発されたアンテナは、どの方向に電波を向けても性能がほとんど変わらないという特長があります。(図3)これは、ドローンのような動き回る機器との通信や充電に特に役立ちます。

【暮らしを変える多様な応用分野】
<通信分野での活用>
・5G/6G基地局や携帯電話のアンテナ
・IoT機器(インターネットにつながる様々な機器)の高速通信
<無線充電分野での活用>
・飛行中のドローンへの充電システム(図4)
・移動ロボットへのコードレス給電
・センサーネットワークの長期運用を支える電力供給

【研究成果】
コンピュータシミュレーションと実際の測定実験の両方から、このアンテナの有効性が確認されました。実験では、予測通りの性能が得られ、実用化への可能性が示されています。(図5)
研究グループは今後、通信用アンテナとしての応用可能性についてもさらに研究を進める予定です。
本研究に取り組んだ博士前期課程の学生は、この研究成果を電子情報通信学会で発表し、「エレクトロニクスソサイエティ学生奨励賞」を受賞しました。この受賞は、研究の革新性と将来性が学術界からも高く評価されたことを示しています。 本研究は、東京都が推進する「ローカル5G環境を活用した最先端研究プロジェクト」の一環として行われ、5G/6Gの新しい使い方の創出に貢献することが期待されています。

■研究課題3「通信資源の利用効率最大化を目指したモバイルネットワーキング」
研究代表者:朝香 卓也 教授(システムデザイン研究科)
本研究では、5Gの潜在能力(高速大容量、低遅延、同時多接続)をより効果的に活用する技術の確立を目指し、以下の3テーマについて検討を行っています。
テーマ1:ネットワークエッジ※1を用いた分散コンピューティング※2/分散データ配信技術
テーマ2:ドローン基地局による高効率モバイルアクセスネットワーク構成技術
テーマ3:ユーザの集団行動特性を考慮した通信資源の効率的利用技術
※1:ネットワークの末端。データや信号を送受信したりする末端の機器のこと。
※2:プログラムの個々の部分が同時並行的に複数のコンピュータ上で実行され、各々がネットワークを介して互いに通信を行いながら処理が進行する方法。
テーマ1では、エッジコンピューティングを活用した「ARグラスを用いた音声・環境音認識支援システム」および「ARグラスを用いた話題提供システム」の開発に取り組んでいます。今年度は、試作したシステムを用いた被験者実験や実運用を想定した拡張性に関する実験を実施しました。これにより、提案コンセプトの有効性および実運用に向けた具体的な課題が明らかになりました。また、これらの成果は、2024年5月29日から5月31日に東京ビックサイトにおいて開催された「ワイヤレスジャパン 2024×ワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP) 2024」において、ポスター展示し、多くの来場者にご覧いただきました。 展示会では、来場者からシステムの応用可能性や今後の展開について多くの質問やフィードバックをいただきました。特に、ARグラスを用いた音声認識支援システムのリアルタイム性能や、話題提供システムのユーザーインターフェースに関する意見が寄せられました。これらのフィードバックを基に、今後はシステムのさらなる改善と実用化に向けた取り組みを進める予定です。また、2025年には実際の運用環境でのフィールドテストを実施し、実用化に向けた最終的な調整を行うことを目指しています。

テーマ2では、ドローン基地局により地上ユーザに通信サービスを提供する空中-地上間ドローンネットワークにおいて、既存の無線通信システムへの干渉を回避するために重要となる信号波源推定技術の提案および実験による提案システムの有効性検証を行いました。まず信号波源推定技術の基本となる技術として、最尤推定に基づく波源推定技術を提案しました。また、基本技術を複数波源の存在を考慮した手法へと拡張し、市街地での利用を想定したシミュレーション実験においても有効性の確認を行いました。
本テーマでは、無線電力伝送によるドローンへの給電や効率的な移動経路設定等を検討し、稼働時間やバッテリ容量を考慮した現実的な手法へと改良を重ねています。また、本テーマと関連して、ローカル5G基地局の伝搬測定やドローン基地局と地上局との伝搬測定について、企業との共同研究を行うなど幅広い研究を展開しています。
テーマ3では、これまでの研究で得られたユーザの集団行動特性の理解に基づき、FinTech・防犯・安全保障への応用技術の検討を行いました。今年度は、ユーザのオンライン行動の変化をいち早く捉える基礎技術の構築と、その社会応用としての検討を進めました。FinTech分野では、不正行動の兆候検出や市場予測の高度化に向けた分析手法を設計・試行し、防犯・安全保障の分野では、異常行動の早期検出に関する技術的検討を行いました。これらの成果は、情報ネットワーク研究会(IN)において継続的に発表を行い、情報ネットワーク研究会5月最優秀発表賞、12月最優秀発表賞、第10回情報ネットワーク若手研究奨励賞、第31回情報ネットワーク研究賞と、複数の表彰を受ける成果につながりました。また、得られた知見に基づき、関連する基礎技術の特許申請も行いました。2025年度には、FinTechに関する技術の一部を社会実装につなげるべく、大学発スタートアップの立ち上げに向けた実証研究を進める予定です。加えて、防犯・安全保障分野については、科研費基盤研究(A)の枠組みのもと、さらなる技術深化を目指します。

民間企業等の社会実装促進
○ローカル5G環境の民間活用等を通じて、5Gの新たなユースケースやサービスの創出を促進
2024年度に6件の実証フィールド提供を実施しました(2022年度から2024年度までに、累計で28件の実証フィールド提供を実施しました。2024年度末までに15件実施が目標)。
2024年度に実施した実証実験の事例を、以下の通りご紹介します。
紹介する2件の実証実験は、本学で開催した「5G活用アイデアソン2024 Create the Future -よりよい未来を創造する-」において、学生が創出した2つの最優秀アイデア(ロボット、XRの各テーマ1つ)を基に、アイデアソンに協賛いただいた企業が実施したものです。
【実施例1】
株式会社Piezo SonicとTIS株式会社は、液晶モニターを搭載したロボットが人に近づき、5G通信により対象者の属性に合わせて瞬時に液晶モニターに映す映像を切り替えるという実証実験を行いました。
1680×1050の大容量映像データで実施した際に、映像切り替えの遅延時間を、5G通信では4G通信の300分の1に短縮することができました。
また、5G通信の方が4G通信より速やかな応答が可能となり、広告表示のタイミングや内容の適切な制御がより正確に行えることが示され、広告を見せたいターゲットに対して適切なタイミングで広告を提示できることが可能となりました。
今後の5Gの普及に伴い、ターゲティング型移動広告としての活用が期待されます。


【実施例2】
株式会社ホロラボとTIS株式会社は、5G通信とXRデバイスを組み合わせることで、大容量データを用いたリアルタイムな没入体験を提供する実証実験を行いました。
温浴施設とXRデバイスを組み合わせ、選んだ温泉地にまるで本当にいるような体験を提供する、という学生のアイデアに基づいた実証実験を行いました(温浴施設は用意できなかったため、足湯にて代用しました)。
5G通信により、大容量のXRコンテンツデータを体験者のデバイスに高速伝送し、没入感の高い体験をスムーズに提供することができました。
今後、5GとXR技術の普及により、観光需要の創出と地域経済の活性化につながる新しい観光体験の新たな可能性を開くことができると期待されます。


今後の取組(2025年度)
5Gを活用した最先端研究
■研究課題「L5Gネットワークを用いた次世代マルチモーダルセンシング」
本研究で提案開発したミリ波帯新型アンテナの研究成果について論文化を行い、国内外に成果を発表します。その他、都立大L5G環境の電磁環境測定を行った結果について、学会での成果発表を行う予定です。
民間企業等の社会実装促進
■実証実験を随時受付中!
都立大学では民間企業等の社会実装促進を目的に、ローカル5G実証フィールドを無償で提供しております。実証フィールドの詳細については、都立大ホームページをご覧ください。