進捗状況(2023年10~12月)
1.データドリブンとDXで「伝わる国際広報」を実践
(1)国際広報におけるデジタルツールの導入と組織DXの必要性
「国内外に向けて広く情報を発信していきます」――行政の広報で割とよく見るタイプのフレーズですが、まず情報の受け手(=ターゲット)が何を求めているのかをよく分析しないと「伝わる広報」は実現できません。
特に、世界には約200ヵ国に80億もの人が暮らしており、居住地、職業、興味関心、文化、信条なども多種多様です。世界のどこかに暮らしている顔も姿も見えない不特定多数に、漠然と情報を発信することは、まるで砂漠に水をまくようなものです。
そうした物理的・文化的に離れた「お客様」が何を求めているのかを把握するためには、デジタルツールの活用が不可欠です。このことから、東京都では、PRマーケティング志向とデジタル分析の重要性を強く認識し、発信と分析のPDCAサイクルによる効果的な国際広報を目指しています。あわせて、そうしたデジタル分析の結果を活用するため、都庁総合HP英語版の運用の見直しと発信支援を組みあわせて組織DXを進め、海外発信のケイパビリティを都庁各局の広報部門に実装していくことも重要です。
(2)国際広報へのデジタル分析ツール活用のフロー
①海外ターゲットの興味関心を把握
ソーシャルリスニングツール、海外メディアの報道、公知情報等のデジタル分析を通じ、国際社会で話題となっているトピックやトレンド、地理的に離れた海外ターゲットの興味関心や情報ニーズを把握
②ターゲットの興味関心を踏まえた仮設設定と発信
把握した海外ターゲットの興味関心等を踏まえ、ターゲットが求めている情報コンテンツの発掘・制作と、効果的な広報手法に係る仮説を設定し、情報発信を実行
③情報発信の成果を捕捉・分析
ウェブサイトやSNSアカウント等のパフォーマンスをデジタルツールにより可視化。ダッシュボード等のアナリティクスツールや広告レポートによる記事投稿や広告キャンペーン分析、発信に成功したコンテンツや発信手法の特徴や傾向を集積・整理
④次のコンテンツ制作と発信に反映
分析結果を次回のコンテンツ制作と発信にフィードバックし、さらなる改善につなげる
2.公式HPによる効果的な海外発信の実現
近年DeepLなどのAI翻訳の精度向上には目を見張るものがありますが、ターゲットや目的に応じて人の手による翻訳(人力翻訳)との使い分けを検討していくことが重要です。
AI翻訳と人力翻訳の特性の違い | 目的 | コンテンツ | 発信の特徴 |
AI翻訳 | 情報のユニバーサルアクセスを担保 | 日本語と同じ情報(完全対訳) | 日本語と同量・同スピードで情報発信できるので、外国人住民向けの情報発信等に適する。ただし一部不正確な訳出となる可能性がある ➡重要なページについてはプリエディット・ポストエディットで正確性を補完する必要 |
人力翻訳 | 伝わる広報の実現 | 本当に伝えたい/伝えるべき情報 | ターゲットニーズを踏まえ、高い訴求力と品質で発信できるが、コンテンツの作成に時間と手間ががかかる ➡マーケティング志向の高い、大切なコンテンツについて使うのが現実的 |
例えば、以下の例文を見てみましょう。
『都は来月、多摩地域で魅力発信イベントを実施します。国内外から多くの皆様のお越しをお待ちしています』
これをAI翻訳にかけると『The Tokyo Metropolitan Government will hold an event to promote the attractiveness of the Tama region next month. We look forward to welcoming many people from Japan and abroad!』のようになります。英語として誤訳が生じているわけではないのですが、海外からの集客を目指すのであれば、根本的な工夫が必要です。
まず海外の方にとっては多摩地域がどこにあるのかが分かりませんし、国内在住の人のようにフラっと来れるわけでもありません。例えば、たまたまその時期に来日しようとしている旅行者を念頭に置いて、そうしたターゲットに訴求力のあるメッセージにする等の工夫をすると、こんな具合になります。
『The Tama area, which stretches across the western part of Tokyo, is full of attractions that are different from city life. Why not include a relaxing day away from the hustle and bustle of the city in your itinerary? The Tokyo Metropolitan Government offers the perfect event in the Tama area next month.』(東京の西部に広がる多摩エリアには、シティライフとは違った魅力が満載です。都会の喧騒から離れリラックスする一日を、あなたの旅程に組み込んでみませんか?東京都は最適なイベントを来月多摩エリアで行います。)
どちらのほうが集客につながるかは、一目瞭然でしょう。
とはいえ、行政の広報担当者の本音として「そんなこと言っても、海外の人がどんなニーズを持っているのかわからないし、どういう英語にしたらいいのかもわからないよ!」といった悩みは少なくないようです。
実際、東京都では各局がそれぞれの英語HPを保有・運用しているのですが、そうした海外発信のハードルの高さも手伝って、英語HPは日本語HPに比べてコンテンツの更新頻度、コンテンツの量、アクセス数(コンテンツの質)が低く留まっているのが現状です。
そこで、東京都はHPによる海外への発信力を高め、国際社会の東京への認知・理解を下支えすることを目的として、都庁全体の英語HP運用体制を抜本的に再構築し、都職員が「海外にウケるネタ」を発掘・制作し、発信しやすくする仕組みを構築することとしました。
具体的には、都庁各局が保有する主要な英語HPを統合し一元化した情報発信を実現するともに、HPのバックエンド側での運用体制を改善するため、現行の都庁総合HP英語版を抜本的にリニューアルしていきます。。
また、 戦略広報部に設置する国際広報の専門部隊による海外発信支援体制の強化も併せて行います。システムの再構築とコンテンツ制作発信支援を効果的に組み合わせることにより、更新頻度やコンテンツの質・量を高める仕組みをつくることが可能になるためです。
東京都は、職員が海外に情報発信するハードルを下げる仕組みをづくりを通じ、行政における国際広報のDX(デジタル・トランスフォーメーション)、CX(コーポレート・トランスフォーメーション)を目指していきます。
今後の取組(2024年1~3月)
1.データドリブンで「伝わる国際広報」を実践
これまでの取組を継続し、PDCAサイクルを効果的に回転させることで国際広報のパフォーマンスを改善していきます。
2. 公式HPによる効果的な情報発信の実現
都庁総合HP英語版の再構築を進めるとともに、各局の英語発信力の強化支援を継続します。都庁総合HP英語版はリニューアルに向けたさらなる調査・要件定義を進め、2024年秋ごろの公開を目指しています。