進捗状況(2023年7~9月):デジタルツールを活用した東京の海外発信力強化プロジェクト【政策企画局】

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進捗状況(2023年7~9月)

1.データドリブンとDXで「伝わる国際広報」を実践

(1)国際広報におけるデジタルツールの導入と組織DXの必要性

「国内外に向けて広く情報を発信していきます」――行政の広報で割とよく見るタイプのフレーズですが、まず情報の受け手(=ターゲット)が何を求めているのかをよく分析しないと「伝わる広報」は実現できません。

特に、世界には約200ヵ国に80億もの人が暮らしており、居住地、職業、興味関心、文化、信条なども多種多様です。世界のどこかに暮らしている顔も姿も見えない不特定多数に、漠然と情報を発信することは、まるで砂漠に水をまくようなものです。

そうした物理的・文化的に離れた「お客様」が何を求めているのかを把握するためには、デジタルツールの活用が不可欠です。このことから、東京都では、PRマーケティング志向とデジタル分析の重要性を強く認識し、発信と分析のPDCAサイクルによる効果的な国際広報を目指しています。あわせて、そうしたデジタル分析の結果を活用するため、都庁総合HP英語版の運用の見直しと発信支援を組みあわせて組織DXを進め、海外発信のケイパビリティを都庁各局の広報部門に実装していくことも重要です。

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(2)国際広報へのデジタル分析ツール活用のフロー

①海外ターゲットの興味関心を把握
ソーシャルリスニングツール、海外メディアの報道、公知情報等のデジタル分析を通じ、国際社会で話題となっているトピックやトレンド、地理的に離れた海外ターゲットの興味関心や情報ニーズを把握

②ターゲットの興味関心を踏まえた仮設設定と実行
把握した海外ターゲットの興味関心等を踏まえ、ターゲットが求めている情報コンテンツの発掘・制作と、効果的な広報手法に係る仮説を設定し、情報発信を実行

③情報発信の成果を捕捉・分析
ウェブサイト、SNSアカウントのパフォーマンスをデジタルツールにより可視化。ダッシュボード等のアナリティクスツールや広告レポートによる記事投稿や広告キャンペーン分析、発信に成功したコンテンツや発信手法の特徴や傾向を集積・整理

次のコンテンツ制作と発信に反映
分析結果を次回のコンテンツ制作と発信にフィードバックし、さらなる改善につなげる

2.公式HPによる効果的な情報発信の実現

(1)AI翻訳の導入と誤訳通報システムの運用

 AI翻訳の導入

昨今の多文化共生社会の進展やグローバル化により、行政が発信する情報へのユニバーサルアクセス(誰もが同じ情報にアクセスできること)の要請が増大しています。

日本語のホームページと同等量の情報を、非日本語話者にも等しく発信できるようにするため、東京都戦略広報部ではAI翻訳のHPへの導入を各局に要請し、日本語と同じ量の情報を、同時に英語でも発信できるようにしました。また、その訳出についても誤訳を解消するためのポストエディット(訳された文章がおかしくないか確認すること)を行っています。

イ 誤訳通報システムの運用

各局のポストエディットをサポートするツールとして、戦略広報部では「誤訳通報システム」を開発し、運用しています。これは、各局のHPを巡回し、誤訳あるいは不適切な訳出を発見し、修正案を各局の担当者に通報することにより、都庁全体のHPによる英語発信の品質向上を目的とするものです。

日々各局のHPをパトロールする中で、AI翻訳の精度が飛躍的に向上していることを実感しています。一方で、100%正確な訳出はできないため、特に生命や財産に関する情報などは、人の眼でポストエディットを行うことが重要であると感じています。

ウ 実際の誤訳例

これまで各局HPをパトロールする中で発見した“とんでも誤訳”の例をご紹介します。

日本語AI翻訳正しい翻訳誤訳の中身
小池知事プレゼンテーションPresentation by Governor SmallGovernor Koike’s presentation「小池」を名前と認識していない
都内のインフルエンザ「流行注意報」Influenza “Pandemic Alert” in Tokyo“Flu Outbreak Alert” issued in Tokyo「Pandemic」は世界的な流行
インフルエンザは例年12月から3月にかけて流行します。Influenza Example spreads from December to March.Flu usually spreads from December to March the following year.「例年」を「例」と勘違い

従前の「機械翻訳」は訳出精度がイマイチという評価もありましたが、AI翻訳の導入により、その精度は飛躍的に高まりました。それでも上記のように100%正確な訳出が出来ているとは限りません。誤訳修正作業は、その単語や文章の間違いを直接正すことはもちろんですが、誤訳のパターンと改善案をAIに学習させることにより、今後のAI翻訳の訳出向上にもつなげることができます。このことから、戦略広報部では、引き続き誤訳通報システムを使った各局のポストエディットのサポートと、それを通じた全体の翻訳品質の確保に取り組んでいます。

(2)都庁総合ホームページ英語版の再構築と海外に向けた情報発信の強化

AI翻訳と人の手による翻訳(人力翻訳)は、それぞれの目的に応じて使い分けをしていくことが理想的です。

AI翻訳と人力翻訳の特性の違い目的コンテンツ発信の特徴
AI翻訳情報のユニバーサルアクセスを担保日本語と同じ情報(完全対訳)日本語と同量・同スピードで情報発信できるが、一部不正確な訳出となる可能性がある
➡重要なページについてはプリエディット・ポストエディットで正確性を補完する必要
人力翻訳伝わる広報の実現本当に伝えたい/伝えるべき情報ターゲットニーズを踏まえ、高い品質で発信できるが、翻訳に時間と手間ががかかる
➡マーケティング志向の高い、大切なコンテンツに限って使うのが現実的

例えば、以下の例文を見てみましょう。

『都は来月、多摩地域で魅力発信イベントを実施します。国内外から多くの皆様のお越しをお待ちしています』

これをAI翻訳にかけると『The Tokyo Metropolitan Government will hold an event to promote the attractiveness of the Tama region next month. We look forward to welcoming many people from Japan and abroad!』のようになります。英語として誤訳が生じているわけではないのですが、海外からの集客を目指すのであれば、根本的な工夫が必要です。

まず海外の方にとっては多摩地域がどこにあるのかが分かりませんし、国内在住の人のようにフラっと来れるわけでもありません。例えば、たまたまその時期に来日しようとしている旅行者を念頭に置いて、そうしたターゲットに訴求力のあるメッセージにする等の工夫をすると、こんな具合になります。

『The Tama area, which stretches across the western part of Tokyo, is full of attractions that are different from city life. Why not include a relaxing day away from the hustle and bustle of the city in your itinerary? The Tokyo Metropolitan Government offers the perfect event in the Tama area next month.』(東京の西部に広がる多摩エリアには、シティライフとは違った魅力が満載です。都会の喧騒から離れリラックスする一日を、あなたの旅程に組み込んでみませんか?東京都は最適なイベントを来月多摩エリアで行います。)

どちらのほうが集客につながるかは、一目瞭然でしょう。

とはいえ、行政の広報担当者の本音として「そんなこと言っても、海外の人がどんなニーズを持っているのかわからないし、どういう英語にしたらいいのかもわからないよ!」といった悩みは少なくないようです。

実際、東京都では各局がそれぞれの英語HPを保有・運用しているのですが、そうした海外発信のハードルの高さも手伝って、英語HPは日本語HPに比べてコンテンツの更新頻度、コンテンツの量、アクセス数(コンテンツの質)が低く留まっているのが現状です。

そこで、東京都はHPによる海外への発信力を高め、国際社会の東京への認知・理解を下支えすることを目的として、都庁全体の英語HP運用体制を抜本的に再構築し、都職員が「海外にウケるネタ」を発掘・制作し、発信しやすくする仕組みを構築することとしました。

具体的には、都庁各局が保有する主要な英語HPを一か所に統合するとともに、HPのバックエンド側での運用体制を改善するため、現行の都庁総合HP英語版を抜本的にリニューアルしていきます。これにより、各局広報職員のHP更新に係る業務改善を実現します。

また、 戦略広報部に設置する国際広報の専門部隊による海外発信支援体制の強化も併せて行います。システムの再構築とコンテンツ制作発信支援を効果的に組み合わせることにより、更新頻度やコンテンツの質・量を高める仕組みをつくることが可能になるためです。

東京都は、職員が海外に情報発信するハードルを下げる仕組みをづくりを通じ、国際広報のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を目指していきます。

今後の取組(2023年10~12月)

1.データドリブンで「伝わる国際広報」を実践

これまでの取組を継続し、PDCAサイクルを効果的に回転させることで国際広報のパフォーマンスを改善していきます。

2. 公式HPによる効果的な情報発信の実現

誤訳通報システムの運用や都庁総合HP英語版の再構築を進めるとともに、各局の英語発信力の強化支援を継続します。都庁総合HP英語版はリニューアルに向けたさらなる調査・要件定義を進め、2024年秋ごろの公開を目指しています。