進捗状況(2024年1~3月):デジタルツールを活用した東京の海外発信力強化プロジェクト【政策企画局】

Int'lPR

進捗状況(2024年1~3月)

1.データドリブンとDXで「伝わる国際広報」を実践

(1)国際広報におけるデジタルツールの導入と組織DXの必要性

「国内外に向けて広く情報を発信していきます」――行政の広報で割とよく見るタイプのフレーズですが、まず情報の受け手(=ターゲット)が何を求めているのかをよく分析しないと「伝わる広報」は実現できません。

特に、世界には約200ヵ国に80億もの人が暮らしており、居住地、職業、興味関心、文化、信条なども多種多様です。世界のどこかに暮らしている顔も姿も見えない不特定多数に、漠然と情報を発信することは、まるで砂漠に水をまくようなものです。

そうした物理的・文化的に離れた「お客様」が何を求めているのかを把握するためには、デジタルツールの活用が不可欠です。このことから、東京都では、PRマーケティング志向とデジタル分析の重要性を強く認識し、発信と分析のPDCAサイクルによる効果的な国際広報を目指しています。あわせて、そうしたデジタル分析の結果を活用するため、都庁総合HP英語版の運用の見直しと発信支援を組みあわせて組織DXを進め、海外発信のケイパビリティを都庁各局の広報部門に実装していくことも重要です。

プロジェクトのイメージ図

(2)国際広報へのデジタル分析ツール活用のフロー

①海外ターゲットの興味関心を把握
ソーシャルリスニングツール、海外メディアの報道、公知情報等のデジタル分析を通じ、国際社会で話題となっているトピックやトレンド、地理的に離れた海外ターゲットの興味関心や情報ニーズを把握

②ターゲットの興味関心を踏まえた仮設設定と発信
把握した海外ターゲットの興味関心等を踏まえ、ターゲットが求めている情報コンテンツの発掘・制作と、効果的な広報手法に係る仮説を設定し、情報発信を実行

③情報発信の成果を捕捉・分析
ウェブサイトやSNSアカウント等のパフォーマンスをデジタルツールにより可視化。ダッシュボード等のアナリティクスツールや広告レポートによる記事投稿や広告キャンペーン分析、発信に成功したコンテンツや発信手法の特徴や傾向を集積・整理

次のコンテンツ制作と発信に反映
分析結果を次回のコンテンツ制作と発信にフィードバックし、さらなる改善につなげる

2.国際発信の効果をデジタル技術で向上する

(1)機械翻訳と人力翻訳

行政からの情報発信といえば、公式HPがその筆頭に挙げられます。近年DeepLなどのAI翻訳の精度向上には目を見張るものがありますが、ターゲットや目的に応じて人の手による翻訳(人力翻訳)との使い分けを検討していくことが重要です。

AI翻訳と人力翻訳の特性の違い目的コンテンツ発信の特徴
AI翻訳情報のユニバーサルアクセスを担保日本語と同じ情報(完全対訳)
日本語と同量・同スピードで情報発信できるので、外国人住民向けの情報発信等に適する。ただし一部不正確な訳出となる可能性がある
➡重要なページについてはプリエディット・ポストエディットで正確性を補完する必要
人力翻訳伝わる広報の実現
本当に伝えたい/伝えるべき情報ターゲットニーズを踏まえ、高い訴求力と品質で発信できるが、コンテンツの作成に時間と手間ががかかる
➡マーケティング志向の高い、大切なコンテンツについて使うのが現実的

例えば、以下の例文を見てみましょう。

『都は来月、多摩地域で魅力発信イベントを実施します。国内外から多くの皆様のお越しをお待ちしています』

これをAI翻訳にかけると『The Tokyo Metropolitan Government will hold an event to promote the attractiveness of the Tama region next month. We look forward to welcoming many people from Japan and abroad!』のようになります。英語として誤訳が生じているわけではないのですが、海外からの集客を目指すのであれば、根本的な工夫が必要です。

まず海外の方にとっては多摩地域がどこにあるのかが分かりませんし、国内在住の人のようにフラっと来れるわけでもありません。例えば、たまたまその時期に来日しようとしている旅行者を念頭に置いて、そうしたターゲットに訴求力のあるメッセージにする等の工夫をすると、こんな具合になります。

『The Tama area, which stretches across the western part of Tokyo, is full of attractions that are different from city life. Why not include a relaxing day away from the hustle and bustle of the city in your itinerary? The Tokyo Metropolitan Government offers the perfect event in the Tama area next month.』(東京の西部に広がる多摩エリアには、シティライフとは違った魅力が満載です。都会の喧騒から離れリラックスする一日を、あなたの旅程に組み込んでみませんか?東京都は最適なイベントを来月多摩エリアで行います。)

どちらのほうが集客につながるかは、一目瞭然ではないでしょうか。

(2)都庁職員の国際広報DX実現にむけた挑戦

とはいえ、行政の広報担当者の本音として「そんなこと言っても、海外の人がどんなニーズを持っているのかわからないし、どういう英語にしたらいいのかもわからないよ!」といった悩みは少なくないようです。現在、東京都では各局がそれぞれの英語HPを保有・運用しているのですが、そうした海外発信のハードルの高さも手伝って、英語HPは日本語HPに比べてコンテンツの更新頻度、コンテンツの量、アクセス数(コンテンツの質)が低く留まっているのが現状です。

そこで、東京都は英語コンテンツの量を増やし、国際社会の東京への認知・理解を下支えすることを目的として、都庁全体の英語HP運用体制を抜本的に再構築するとともに、都職員が「海外にウケるネタ」を発掘・制作し、発信しやすくする仕組みを構築することとしました。

①都庁総合HP英語版の再構築

具体的には、都職員による効果的な国際発信を実現するための「国際広報DXプラットフォーム」として都庁総合HP英語版を再構築すべく、CMSのバックエンド開発を行うことを目指しています。令和6年度は後述するように、都国際広報担当においてAI等による海外報道と都保有情報のマッチングを行い海外に発信すべきコンテンツを発掘する新たなプロジェクトを開始する他、各局の英語コンテンツ制作発信支援のための支援体制とガバナンスの強化を計画しており、この動きを踏まえてHPもシステム的な実装対応を検討していくことが目的です。

HPの抜本的な改良により、オンライン上の英語による東京都の公式情報量を増加させ、キーワード検索による東京都や都施策に関する情報の認知理解の促進に寄与することが可能になると考えています。

また、フロントエンド側も、従前の局別英語HP運用やツリー(階層)型のカテゴリ分類構造を廃止し、各局の海外発信を一元化する運用及びファセット型などによりユーザーが関心のある情報にたどり着きやすい分類構造に改善を行うことで、ユーザー視点で興味関心のある情報や必要な情報をストレスなく入手できるサイトに進化させていきます。

②AI等を活用した情報分析と各局への国際広報支援の強化

これに加えて、都各局が日本語で保有・発信する政策情報やプレスリリース等の情報と、収集した国際社会のトレンド情報や海外報道等とをAI等を活用してマッチングするプロジェクトも開始します。各局が日本語でしか発信していないネタであっても国際社会に訴求力がある内容である可能性があります。それが国際潮流の分析等から客観的に評価できれば、海外向けにプレスリリースや記事、動画、SNSなどのコンテンツとして発信する意義やモチベーションも高まりますし、世界からの耳目を東京に集める可能性も増えるでしょう。

しかし、そうした各局の持つ「良質なネタ」を発信していくためには、我々のような広報部門と、各局の皆さんとで連携することが不可欠です。このことから、戦略広報部に設置する国際広報の専門部隊による国際発信支援体制の強化も行っていきます。システムの再構築とコンテンツ制作発信支援を効果的に組み合わせることにより、更新頻度やコンテンツの質・量を高める仕組みをつくることが可能になります。

東京都は、このように職員が海外に情報発信するハードルを下げる仕組みをづくりを通じ、行政における国際広報のDX(デジタル・トランスフォーメーション)、CX(コーポレート・トランスフォーメーション)を目指しています

今後の取組(2024年4~6月)

都庁総合HP英語版の再構築を進めるとともに、各局の国際発信力の強化支援を継続していきます。都庁総合HP英語版はリニューアルに向けたさらなる調査・要件定義を進め、2024年秋ごろの公開を目指しています。

AI等による情報マッチングの強化も、2024年10月頃までにPOCを終了し、2025年度以降、本格的に東京都の国際広報に実装していく検討を進めてまいります。