進捗状況(2023年10~12月):東京都立大学ローカル5G環境を活用した最先端研究プロジェクト【総務局】

プロジェクトのイメージ

進捗状況(2023年10~12月)

5Gを活用した最先端研究

○5Gを活用した最先端研究を行い、成果を社会に発信しました。

研究課題1「通信資源の利用効率最大化を目指したモバイルネットワーキング

研究代表者:朝香 卓也 教授(システムデザイン研究科)

本研究では、大都市東京を意識した大規模無線ネットワーキング技術の確立を目指して、5Gの潜在能力(高速大容量、低遅延、同時多接続)をより効果的に活用するための通信資源の利用効率最大化技術の研究に取り組んでいます。具体的には、以下の3テーマについて検討を行っています。

テーマ1:ネットワークエッジ(※1)を用いた分散コンピューティング(※2)/分散データ配信技術
テーマ2:ドローン基地局による高効率モバイルアクセスネットワーク構成技術
テーマ3:ユーザの集団行動特性を考慮した通信資源の効率的利用技術
(※1):ネットワークの領域。データや信号を送受信する機器やシステム
(※2):プログラムの個々の部分が同時並行的に複数のコンピュータ上で実行され、各々がネットワークを介して互いに通信を行いながら処理が進行する方法

テーマ1では、ローカル5Gの分散コンピューティング環境においてドローンを用いた見守り・監視サービスの高度化技術に取り組んでいます。今期は、ドローンを模した自立型空中固定スマートポールを用いたネットワーク性能測定実験環境の構築とネットワークシステムの性能実験を実施いたしました。空中での自立・固定状態にすることができるスマートポールを用いることにより、実機ドローンを用いることなく理想的実験環境での様々な実験条件下でのシステム評価を可能にしています。

自立型空中固定スマートポールを用いたネットワーク性能測定実験の様子

自立型空中固定スマートポールを用いたネットワーク性能測定実験の様子

テーマ2では、固定基地局と連携した大容量のトラヒックの収容や大災害時等緊急時のネットワークとして利用するため、ドローン基地局によるモバイルアクセスネットワーク構成技術について研究を行っています。ドローン基地局あるいはドローン中継器の技術課題の1つに、バッテリの制約により長時間飛行することが困難であるという問題があり、その1つの解決方法としてドローンへの無線電力伝送技術に関する研究が行われています。そこで、テーマ2では将来的にドローンへの無線給電を前提としたネットワーク構成法へと発展させることを目的として、無線電力伝送技術に関する検討を始めました。現在は工場内IoT環境など屋内無線電力伝送に関する検討が中心ですが、それらの検討の中で得られた成果を論文タイトル「TDM Scheduling Based on Receiver Grouping for Indoor Wireless Power Transfer」として28th Asia-Pacific Conference on Communications (APCC)にて発表し、Best Paper Awardを受賞しました。本研究では、無線電力伝送のスケジューリング手法について検討し、電波環境に応じたグループ化スケジューリング手法により給電の効率化を実現することに成功いたしました。

Best Paper Awardの記念の盾

Best Paper Awardの記念の盾

■研究課題2「L5Gネットワークを用いた次世代マルチモーダルセンシング」

研究代表者:和田 圭二 教授(システムデザイン研究科)

 L(ローカル)5Gネットワークを用いて、次世代の情報通信技術を基盤とするセンシングシステム(無線通信機能を持つ複数の小型センサー端末を特定の空間内の各所に設置し、複数の計測方法で同時計測することで、空間内の情報を計測・判別するシステム)の構築・提案を目指しています。その要素技術の一つとして,L5Gネットワークと音響デバイス(スピーカやマイクロフォン等)を組み合わせたアプリケーションがあります。
大抵の場合、スピーカやマイクロフォンは有線ケーブルで接続されて使用されています。しかし、スピーカやマイクロフォンを無線化し、空中などに設置することができれば、その応用範囲は格段に向上します。屋内外の展示会場での音の呈示や災害や救難の時にも利用できる可能性が考えられます。
この研究課題の中で取り組んだのは、超指向性音源の代表であるパラメトリックスピーカとL5Gネットワークの融合です。パラメトリックスピーカはオーディオスポットライトとも呼ばれたりするデバイスで、鋭い指向性を有して音を届けたい場所にだけ届けることができるスピーカです。このスピーカへの音信号の伝送に対してL5Gネットワークを通して送ることで、ロバストで低遅延な無線空中音源システムの構築を目指します。

2023年10月から12月の間に、以下の事項に取り組みました。

・東京都立大学日野キャンパスのL5Gネットワークを利用した音呈示システムの実装と評価を行いました。
・国際会議「IEEE INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON ANTENNAS AND PROPAGATION (ISAP2023)」において、無線音源システムの研究発表をしました。
・国際会議の「The 44th Symposium on Ultrasonic Electronics (USE 2023)」において、超指向性空中音源の研究発表をしました。

空中音源としてのスピーカの種類と音の伝わり方

図1 空中音源としてのスピーカの種類と音の伝わり方

無線空中音源の応用:L5Gネットワークによる音信号の伝送と超指向性音源による呈示

図2 無線空中音源の応用:L5Gネットワークによる音信号の伝送と超指向性音源による呈示

■その他の研究
上記のほか、以下の6テーマの研究を推進しています。
各研究の概要については、こちらの都立大ホームページをご覧ください。
・ARゲームで楽しく単独移動を支援するAI車椅子システムの社会実装
・5G通信で遠隔マルチワークを可能とする代理身体システムの構築
・プレス加工DXのための5G環境IoTプラットフォームの構築
・”全ての人の手元まで”を実現するマイクロ物流プラットフォーム
・超実時間モニタリングのためのロボット知能化基盤技術と5G社会
・6Gに向けたハイダイナミックレンジポジショニング技術の創出

民間企業等の社会実装促進

○ローカル5G環境の民間活用等を通じて、5Gの新たなユースケースやサービスの創出を促進
(2022年度末までに7件実施しました。2024年度末までに15件実施することを目標としています。)

2023年10月から12月の間に、以下の事項に取り組みました。
・12月までに3件の実証フィールド提供を実施(2023年度は、累計で9件の実証フィールドを提供)

【実施例】
富士通株式会社は、開発した無線可視化ツールをフィールドに適用し、無線環境の変動に応じて予測通りの環境に対する状況の通知がされるか検証を行いました。おおむね予測通りの通知を確認し、無線可視化ツールによって無線品質の妥当性が判断できることがわかりました。また、ユーザの利便性という点において、改良すべきポイントもわかりました。

無線可視化ツールの測定画面の様子

無線可視化ツールの測定画面の様子

○「5G活用アイデアソン2023」開催(2023年11月17日)
5Gの新たなユースケース創出を目的として、東京都立大学にて「5G活用アイデアソン2023-UPGRADE CAMPUS LIFE-」を開催いたしました。
東京都立大学の学生が参加し、「5Gを活用して、どのようにキャンパスライフをアップグレードできるか」をテーマに、スタートアップ企業からアドバイスを受けながら事業アイデアをまとめ上げました。
イベントの模様は起業LOG(起業家や経営者に有益な情報を提供する国内最大級のWebメディア)に掲載されました。

今後の取組(2024年1~3月)

5Gを活用した最先端研究

■研究課題1「通信資源の利用効率最大化を目指したモバイルネットワーキング」

・「大都市災害時での安心・安全・減災を実現するためのモバイルネットワーキング技術の確立」を目指した3テーマの研究成果の統合に向けた基礎的検討

■研究課題2「プレス加工DXのための5G環境IoTプラットフォームの構築」

・金属薄膜を用いたL5Gミリ波帯カバレッジエリアの拡張手法
・L5G環境下での通信の効率と電磁環境の関係性に関する計測・シミュレーション
・空中無線音源のネットワークシステムの再実装と改善手法
・パワーエレクトロニクス機器と無線通信機の電磁干渉評価試験
・センシングシステム構築を目的として電波暗室においてレーダ実験

民間企業等の社会実装促進

東京都立大学南大沢キャンパス及び日野キャンパスにて新たな企業にローカル5G環境を提供し、新たに2件の実証実験を行えるよう調整中です。

■実証実験を随時受付中!
都立大学では民間企業等の社会実装促進を目的に、ローカル5G実証フィールドを無償で提供しております。実証フィールドの詳細については、都立大ホームページをご覧ください。